決算書はそのまま使えない|建設業財務諸表と決算書の違いを行政書士が解説
決算変更届についてよくいただく疑問のひとつが、これです。
「税理士さんに決算書を作ってもらったので、それを添付すればいいですよね?」
残念ながら、そのままでは使えません。決算変更届に添付する財務諸表は、税務署に出す決算書とは別物です。数字を写すだけの「転記」ではなく、建設業法のルールに合わせた「翻訳」の作業が必要になります。
この記事では、両者が何をどう違うのかを整理します。
そもそも目的が違う
決算書(税務申告用)
税金を計算するために作るものです。会社法・法人税法にもとづき、確定申告書に添付して税務署に提出します。作成するのは通常、顧問税理士です。
建設業財務諸表
許可行政庁が建設業者の経営内容を把握するために作るものです。建設業法施行規則の別記様式にもとづき、決算変更届に添付して都道府県知事(または国土交通大臣)に提出します。
同じ会社の同じ決算期の数字を扱っていても、様式もルールも別に定められています。貸借対照表の様式第15号は建設業法施行規則第4条・第10条・第19条の4に関係する様式として定められており、そこで使う勘定科目の分類は「建設業法施行規則別記様式第15号及び第16号の国土交通大臣の定める勘定科目の分類を定める件」(昭和57年建設省告示第1660号、最終改正 令和4年国土交通省告示第473号)という告示で決められています。
つまり、勘定科目の名前も中身も法令で指定されているということです。手持ちの決算書の科目名がこれと一致していれば別ですが、通常は一致しません。
違い①:勘定科目の振り分けが必要になる
いちばん目につくのがこれです。建設業財務諸表には、建設業特有の勘定科目が使われます。
| 一般の決算書にある科目 | 建設業財務諸表での主な振り分け先 |
|---|---|
| 売掛金のうち工事分 | 完成工事未収入金 |
| 仕掛品等のうち未成工事分 | 未成工事支出金 |
| 買掛金・未払金のうち工事分 | 工事未払金 |
| 前受金のうち未成工事分 | 未成工事受入金 |
| 工事に係る売上高 | 完成工事高 |
| 工事に係る売上原価 | 完成工事原価 |
ポイントは「のうち工事分」という部分です。決算書に「売掛金」と書いてあっても、その全額が工事に関するものとは限りません。中身を確認して、工事分は完成工事未収入金へ、それ以外は別の科目へ振り分けます。名前を置き換えるだけの単純作業に見えて、実際には一つひとつ内容を確認する必要があります。
なお、告示に定められた科目に当てはまらないものや、金額が大きく独立させるべきものについては、内容が分かる適切な科目名で計上することとされています。
違い②:建設業と「それ以外」を分ける
これが2つめの、そしてつまずきやすいポイントです。
建設業財務諸表では、建設業に関する金額と、建設業以外の事業(兼業事業)の金額を分けて記載します。
たとえば、建設業のほかに不動産の賃貸をしている、資材を販売している、といった場合、売上や原価については、建設業分と兼業事業分を区分して記載します。損益計算書でいえば「完成工事高」と「兼業事業売上高」に分かれます。
また、貸借対照表上の債権・債務についても、原則として建設業分と兼業分を区分します。ただし、兼業事業に係る資産・負債には、金額が一定以下の場合に同一性格の科目へ含めることができる「5%ルール」があります。すべてを機械的に分けるわけではない、という点は押さえておいてください。
いずれにせよ、税務申告用の決算書ではこれらが合算されていることがほとんどですから、どこまでが工事売上でどこからが兼業なのかを、会社に実態を確認しながら切り分ける作業が発生します。
さらに、工事経歴書、直前3年の各事業年度における工事施工金額(様式第3号)、損益計算書の完成工事高は、それぞれ矛盾がないように作成する必要があります。特に様式第3号の工事施工金額の合計額は、損益計算書の完成工事高と一致させます。
なお、工事経歴書は記載要領によりすべての完成工事を個別に列挙しない場合があるため、「工事経歴書に記載した個別工事の金額合計=完成工事高」とは限りません。ここは混同しやすいので注意してください。
違い③:工事原価を4つに分ける(完成工事原価報告書)
3つめが、完成工事原価報告書(様式第16号)です。
一般の決算書では「売上原価」でひとまとまりになっていることが多いのですが、建設業財務諸表では、完成工事原価を次の4つに分けて報告します。
- 材料費
- 労務費
- 外注費
- 経費(うち人件費)
問題は、税務申告用の決算書に製造原価報告書がない場合です。中小の建設会社では、原価の内訳が分からない状態の決算書というのも珍しくありません。この場合、請求書や外注先への支払明細、給与台帳などから実態をたどって、4区分に振り分けていく作業が必要になります。
特に難しいのが人件費の区分です。職種名だけで機械的に判断するのではなく、実際にどの業務に従事しているかを確認します。たとえば、工事施工に直接従事する作業員の賃金等は「労務費」、工事部門の管理・調達などに係る従業員の人件費は「経費(うち人件費)」、総務・経理など一般管理部門の人件費は販売費及び一般管理費の「従業員給料手当」というように、実態に応じて区分します。
同じ「給与」でも行き先が変わるということです。ここは行政庁も注意して見ているところです。
「転記」ではなく「翻訳」
ここまで見てきたとおり、決算書から建設業財務諸表を作る作業は、数字を写す作業ではありません。
- 科目の中身を確認して、建設業のルールに沿った科目へ振り分ける
- 建設業分と兼業分を切り分ける
- 原価の内訳を実態にもとづいて再構成する
- 流動・固定の区分を建設業のルールで判定し直す
このうち最後の点も見落としがちです。借入金については、決算日後1年以内に返済する予定・見込みのものか、それを超えて返済するものかという「ワンイヤールール」を踏まえて流動負債・固定負債を判定します。役員借入金についても、科目名だけで判断するのではなく、返済条件や実際の返済状況を確認して区分する必要があります。
この区分ひとつで流動比率が変わり、特定建設業の許可要件に関わってくる場合もあります。
消費税の扱いに注意
建設業財務諸表を作成するときは、元になる決算書が税込経理か税抜経理かを確認し、財務諸表や工事経歴書などで処理方法を統一する必要があります。法人の場合は、注記表(様式第17号の2)に消費税等の会計処理方法を記載します。個人の場合は貸借対照表(様式第18号)の「注」の欄に記載します。
特に注意が必要なのが、経営事項審査(経審)を受ける場合です。経審用の財務諸表は、課税事業年度について原則として税抜で作成します。免税事業年度については税込で作成します。
そのため、税込経理で決算書を作成している課税事業者が経審を受ける場合には、決算書の数字を税抜に組み替える作業が必要になることがあります。将来、公共工事への参入を予定している場合には、顧問税理士とも相談しながら経理方法を検討しておくとスムーズです。
なお、経審を受ける場合は工事経歴書などの取扱いも決まっていますので、広島県の経営事項審査の手引きをあわせてご確認ください。
金額の単位と端数処理
細かい話ですが、補正の原因になりやすいので触れておきます。
建設業財務諸表の金額は、原則として千円単位で記載します。会社法上の大会社については、百万円単位で作成することもできます。
千円未満の端数処理は、切り捨てのほか、四捨五入・切り上げも認められています。かつて切り捨てと定められていた経緯から、実務では切り捨てが一般的ですが、許可行政庁によって取扱いを指定される場合がありますので、指定があるときはそれに従ってください。いずれの方法をとる場合も、書類全体で統一します。
ここで注意したいのが合計欄です。各科目を千円単位にした後の数字を単純に足し上げるのではなく、円単位の元の金額を合計してから千円単位で記載します。そのため、表示された各科目を足した金額と合計欄が1千円程度ずれることがありますが、異常ではありません。
使う様式のまとめ
法人
| 様式 | 書類名 |
|---|---|
| 第15号 | 貸借対照表 |
| 第16号 | 損益計算書・完成工事原価報告書 |
| 第17号 | 株主資本等変動計算書 |
| 第17号の2 | 注記表 |
| 第17号の3 | 附属明細表(該当する株式会社のみ) |
附属明細表は、すべての法人が作成するものではありません。資本金が1億円を超える株式会社、または貸借対照表の負債合計が200億円以上の株式会社が対象です。中小の建設会社では該当しないことがほとんどです。
個人事業主
| 様式 | 書類名 |
|---|---|
| 第18号 | 貸借対照表 |
| 第19号 | 損益計算書 |
様式は広島県のウェブサイトからダウンロードできます。
※注記表(様式第17号の2)は令和7年4月1日に改正され、「17-3 国際最低課税額に対する法人税等」が追加されています。この項目はすべての法人で記載が必要ですが、多くの中小建設業者では該当する金額がないため、その場合は「該当なし」と記載します。作成時は必ず最新様式を使用してください。
よくある質問
Q. 税理士に建設業財務諸表まで作ってもらえませんか。
税理士は税務申告用の決算書・申告書を担当します。一方、その決算書を基礎として建設業法所定の財務諸表や決算変更届を作成し、許可行政庁へ提出する手続は、原則として行政書士が取り扱う業務です。なお、税理士が行政書士として登録している場合などは、その行政書士資格で対応することができます。当事務所では、顧問税理士が作成された決算書をお預かりし、必要に応じて内容を確認しながら建設業財務諸表を作成します。
Q. 決算書の数字と建設業財務諸表の数字は一致しなければいけませんか。
税務申告用の決算書や申告資料を基礎に作成するため、根拠なく数字を変更することはできません。ただし、勘定科目の振り分け、建設業と兼業の区分、流動・固定の区分、経審を受ける場合の税抜処理など、建設業財務諸表の作成ルールに沿って組み替えるため、個々の科目や金額が税務申告用の決算書と一致しない場合があります。重要なのは、元となる決算内容との整合性が説明できることです。
Q. 兼業がない、工事だけの会社なら簡単ですか。
兼業の切り分けがない分は楽になりますが、勘定科目の振り分けと完成工事原価報告書の作成は同じように必要です。
決算変更届・建設業財務諸表のご相談
森岡行政書士事務所では、福山市・尾道市・三原市・府中市・笠岡市および岡山県南部を中心に、建設業財務諸表の作成と決算変更届の提出を承っています。
顧問税理士が作成された決算書をお預かりして、建設業法の様式に組み替えるところからお手伝いします。経審の受審を予定されている場合は、そこを見据えた作り方のご提案もいたします。
決算変更届そのものの期限や必要書類については、建設業の決算変更届とは?期限・必要書類・出さないとどうなるかもあわせてご覧ください。
※本記事は2026年8月時点の情報にもとづいています。制度は改正されることがありますので、実際の手続きにあたっては広島県の最新の手引きをご確認ください。
【参考・一次資料】
- 建設業法施行規則(昭和24年建設省令第14号)別記様式第15号〜第19号および記載要領
- 建設業法施行規則別記様式第15号及び第16号の国土交通大臣の定める勘定科目の分類を定める件(昭和57年建設省告示第1660号)
- 国土交通省令第38号(令和7年3月31日公布・令和7年4月1日施行/注記表の改正)
- 広島県「許可申請書様式」 https://www.pref.hiroshima.lg.jp/soshiki/93/shinyoushiki.html
